東芝が格好の材料を提供してくれました。決算発表の延期です。背景には買収した米ウエスチングハウスの減損処理や債務超過が絡んでいると噂されています。既に特設注意市場に指定されているだけに上場廃止の可能性すら出てきました。さらなる株価下落の思惑も交え、空売りの勢いが増しています。
東芝の株価を追う際、目先の問題として「企業が倒産するか」というトピックスが浮上します。最悪のケースは株価0円ですね。今回はパターン別に倒産のシナリオを考えます。あえて底値買いの可能性についても言及します。
- 東芝の特異な減損処理
- 東芝倒産の3パターン
- 債務超過
- 経営自治権の消滅
- 上場廃止
- 上場廃止までの3ステップ
- オリンパスに見る買いの選択肢
東芝の特異な減損処理
最初に東芝による米ウェスティングハウスの減損処理について。世間を騒がせている東芝のニュースで、これが倒産の憶測を呼ぶ材料となっています。要約すると「原子力事業で大幅な減損処理。債務超過で、もう東芝は駄目だ(潰れる)」という推理です。あながち嘘ではないのですが、理論の飛躍が見られます。まずはここから解説していきましょう。
まずは減損処理のタテマエの説明から。経営陣の主張は簡単に言って「銀行がお金貸してくれない」「だから追加投資ができない」。これが減損処理の理由です。
追加投資とは書きましたが、これは企業が利益を生むために行なう恒常的な出費のことを指します(いわゆる「ナンピン」ではない)。どんな企業であっても支出は避けられず、ましてや原子力なんて事業であれば巨額の投資を必要とします。では、その資金はどこから出るのか? 普通の企業は銀行からの借り入れ金で賄います。
ただ、東芝は不正会計により信用力が低下。結果、銀行が追加資金を貸してくれなくなりました。投資をしなければ利益が出ない。東芝はここで失敗したというのです。
投入する資金が減ってしまうと、ウェスチングハウスは無駄にでかいだけの会社です。追加投資の金額が少なければ費用対効果が悪化し、生み出すはずの利益が期待できなくなります。買収の当初に想定していた「のれん」の価値が下がる訳で、会計上の減損処理に至った。これが経営陣の主張です。
上記の主張が正しいとすれば、ウエスチングハウスの減損処理は非常に特異なケースに思えます。繰り返しになりますが、東芝経営陣の言い訳は「資金調達の困難によるもの」とのこと。巷では買収が失敗であったという説が跋扈していますが、どうにも経営陣の言い訳もまんざら嘘ではないようです。
経営陣を擁護する訳ではありませんが、資金繰りの困難は後から出てきた要因が悪さをした結果です。買収時点の判断を間違えたと断定することはできません(まあ、粉飾決算しながら他社の買収とかするなよという思いもありますが)。また、倒産の直接的な要因になるものでもありません。
東芝倒産の3パターン
さて、倒産の可能性を探る上でのポイントを考えましょう。繰り返しになりますが、直近で起きたウエスチングハウスの減損処理は、倒産の直接的な原因になるものではありません。むしろ原因ではなく、結果でしょう。本質的には、東芝の経営層が長年の経理不正を行ない、社会的信用を失ったことに起因します。
では、東芝倒産のシナリオを考えた場合に、どのような事由が直接の引き金になるのでしょうか。株式価格が0になる可能性を踏まえて、以下に3パターン挙げたいと思います。
債務超過
巷で話題になっているのが、債務超過による倒産です。この場合、株式が紙くずになる可能性を秘めています。しかし、個人的には、このシナリオがすぐに起きることはないと思います。これは、東芝のバランスシートを見ると分かります。
東芝の2016年3月期のバランスシートでは、資産合計5.4兆円・負債合計4.7兆円となっています。少なくとも現在の数字の上では資産が負債を上回り、会計用語本来の意味での「債務超過」とはなっていません。この点、各メディアは「株主資本」の債務超過という枕詞を付けていますね。
可能性としては、確かに目先の操業資金がなくなれば倒産というシナリオが残ります。ただ、その可能性も少ないことでしょう。というのも、キャッシュフローを見てみると、同社は明らかに現金を増やしているためです。東芝メディカルシステムをキャノンに売却したことに加え、投資を抑制して現金を用意したことが分かります。
現在、手元にあるキャッシュは約1兆円。まだ、営業活動を続ける体力は残っています。
経営自治権の消滅
前項でキャッシュが残っていると書きましたが、まだ増える余地が残っています。資産の切り売りです。所有の土地・建物に加えて、子会社(の株)や事業部を売却することも可能です。ただ、逆の可能性として浮上するパターンが、組織の解体や丸ごと買収による自治権の消滅、事実上の倒産です。
もっとも、その可能性も低いと考えます。東芝は良くも悪くも全方位作戦を取ってきた企業です。事業は多岐に渡り、多くの部門は赤字も生み出してはいます。ただ、火力発電や鉄道のようなエネルギー・インフラといったコア事業には未だ社会的な存在価値が残っています。同業の三菱や日立による買収も可能性としてはアリですが、現実的には丸ごと買収するにも規模が大きすぎる障害があります。
あり得るとしたら、合併か公的資金注入による国有化でしょうか。その場合は上場廃止にはなりますが、株式資本は救われます(買収元企業による買い上げ)。また、コンシューマープロダクトにしても、海外市場ではメイドインジャパンの東芝ブランドには利用価値があるでしょう。なんだかんだで、このパターンの東芝消滅はないと考えます。
上場廃止
倒産の可能性として、最も可能性あるパターンが上場廃止です。株式ブログとしては、ここに一番の注目をしています。現在、東芝は東証の特設注意市場銘柄に指定されています。なんら事態が改善せずに突き進むと、東証から上場廃止の烙印を押されます。
上場廃止になると倒産に至るのは、社会的信用が枯渇して銀行からの借り入れができなくなるためです。誤解なきよう書いておくと、貸し剥がしではありません。銀行からの借り入れ⇒返済⇒新規借り入れのサイクルが止まるという意味です。企業も5年とか10年とかの区切りでローンを組んでいます。新規の借り入れができなくなれば、借金を返すために現金が減り続けます。
理屈の上では現金が残っている限り営業を続けられるように思われます。しかし、現金がなければ事業活動に投資ができないため利益を生み出すことはできません。先細りが確実になるので、早々に決断する必要に迫られます。民事再生法の申請、いわゆる倒産です。株式市場では、PBRを絡めた東芝の資産価値が取り沙汰されることでしょう。
上場廃止までの3ステップ
そんな訳で、倒産のシナリオと絡めて上場廃止のプロセスを解説しましょう。以下は上場廃止までのプロセスです。東京証券市場による上場廃止は3ステップを踏んで行なわれます。
- 特設注意市場銘柄への指定
- 監理銘柄(審査中)への移行
- 整理銘柄市場への移行
現在(2017.2)の東芝は特設注意市場銘柄に指定されています。不思議な話ですが、この時点ではまだイエローカードの段階です。健全な企業でも軽微な問題で指定されることがあるので、しばしば目にする機会があります。
ただ、残念ながら東芝は十中八九で次のステップに進みます(3.15予定)。監理銘柄への移行。イエローカードの2枚目が出ることでしょう。既に同社は組織的に不正を働いていた事実が悪質とみなされています。具体的な要件として、上場廃止基準の「有価証券報告書の虚偽記載」「上場契約違反」に該当します。
監理銘柄に指定された場合、具体的な改善案を出せなければ最後のステップに進みます。「整理銘柄市場」への移行です。レッドカードで退場(上場廃止)が確定します。東証2部に残れればまだ存命余地がありますが、上場廃止は再起不能を意味します。
尚、整理銘柄市場に移っても、上場廃止までに1ヵ月間だけ猶予が与えられます。新規の信用売買はできませんが、信用返済と現物売買はできるようです。ただし、1ヵ月待たずに倒産に至る場合もあるので、買いはハイリスクの選択肢です。というか、上場廃止確定なのに新規は現物買いしかできないとか無理ゲーです。
オリンパスに見る買いの選択肢
最後に気になる株式売買の話を少々。過去の事例から買いの選択肢も考えてみたいと思います。オリンパスです。同社も不正会計が祟って監理銘柄(審査中)にまで足を突っ込んだ銘柄です。
実はオリンパスは監理銘柄入りの底値からのテンバーガーを成し遂げた銘柄であったりします。底値は監理銘柄に指定された2012年の424円。それが2017年の直近高値は5040円(2015年)ですから、株価10倍でテンバーガーとなった訳です。アベノミクスの恩恵があったとは言え、かなり高いパフォーマンスを示しました。
オリンパスのリターンを見る限りは、東芝の買いもありと言えばありだと考えます。ただし、底値買いのタイミングは非常に難しい所です。というのも、オリンパス株が底打ったのは監理銘柄に指定された直後であったためです。前述の通り、監理銘柄入りは上場廃止の可能性を孕んでいます。底値拾いは上場廃止のリスクと表裏一体にありました。
(画像はSBI証券のHYPER SBIより)
という訳で、東芝の株を検討するならオリンパスのチャートを参考にしてエントリーポイントを探りたいところです。つまる所は要検証という訳で・・・。管理人も時間があれば研究しようと考えています。
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