信用取引・信用建て余力の計算方法
- 2014/7/6
- 株式取引の基礎知識
- 信用取引, 取引ルール
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信用余力は、基本的に預け入れ保証金の金額に比例します。信用建てを行うためには、建て玉の30%の現金を証券会社に預け入れる必要があります。ただし、例外があります。現物株式や投資信託を担保として預け入れる場合です。この場合は、現物株・投資信託の資産価値の一部を保証金として割り当てることができます。
この「一部を保証金として割り当てる」というルールが厄介で、信用建て余力の計算をややこしくします。そこで今回は、株式取引の基礎知識として、信用余力の算出方法をケースバイケースで解説していきたいと思います。
- 信用余力の計算基準
- ケース1:現物株も投資信託も保有していない場合
- ケース2:有価証券を保有している場合(掛目が通常の場合)
- ケース3:有価証券の担保率が変更された場合
- ケース4:現引きを行って信用余力を増やす
- まとめ
Contents
信用余力の計算基準
信用取引は、預け入れ保証金を担保として、手持ち資金以上の金額(およそ3倍)の株式を売買することができる方法です。昔は信用取引といえば、「家をなくす」だとか「破産する」という先入観が強い取引ルールでした。しかし、ネット証券の台頭や取引ルールの改正もあって、昨今では非常に便利な取引方法となりました。デイトレのような短期取引で利益を増やすためには、必須の方法でもあります。
この信用取引において、信用買い&信用売りの可能な金額のことを「信用建て余力」といいます。信用取引に必要な保証金は最低30万円で、その場合、100万円までの株式を売買することができます。つまり、およそ3倍の金額を信用取引では動かすことができる訳です。これが信用取引をすることのメリットであり、利益を増やすことができる魅力でもあります。
先ほど、「保証金の3倍の金額」と書きましたが、厳密には.3倍です。そして、いくつか例外的なルールも設けられています。例えば、現物株を保有している場合です。その場合、現物株を価値ある資産と見立てて、大体の場合、8割程度の金額を保証金の担保に当てることができます。
もっとも、現物株でも株式の種類であったり、その銘柄の状況によって、保証金に割り当てられる金額は変わってきます。この当たりが、信用余力の計算をややこしくする原因でしょう。ここでは、以下のケースを想定し、信用建て可能な金額(信用建て余力)の計算を行っていきます。
- ケース1:現物株も投資信託も保有していない場合
- ケース2:有価証券を保有している場合(掛目が通常の場合)
- ケース3:有価証券の担保率が変更された場合
- ケース4:現引きを行って信用余力を増やす
現物株も投資信託も保有していない場合
現物株や投資信託のことを代用有価証券といいます。この代用有価証券を保有せず、純粋に信用取引だけする場合は、話が単純です。以下の例のように、信用余力を算出することができます。
- 例:代用有価証券を保有しない場合の信用余力
- 預け入れ保証金:400,000円
- 信用建て玉の評価額:320,000円
上記の場合、信用建て余力は以下の通り。
- 信用建て可能な金額の総額×30%=保証金の金額
- 信用建て可能な金額の総額=信用新規建て余力+信用建て玉の評価額
- (信用新規建て余力+信用建て玉の評価額)×30%=保証金の金額
これらより、下式の通り計算できる。
「X=信用新規建て余力」とおいて、計算する。
- (X+320,000)×(30/100)=400,000
- X=400,000×100/30-320,000=1,013,333
1,013,333円の株式を買い付け(空売り)可能。
要は、保証金の金額をざっくり3倍して、そこから建て玉の金額を引いた分が信用建て余力となる訳です。
一点、注意することとしては利益or損失が出た場合です。利益と損失は直接、保証金の金額に計上されます。保証金の加減算は、その日の引け後の値洗いの際に行われます。
有価証券を保有している場合(担保率が通常の場合)
株式や投資信託のような資産を代用有価証券といいます。その名の通り、「保証金の代わりに用いることができる価値有る証券」を意味します。このため、現物株と投資信託の評価額の一部は、保証金として加算されます。
加算される金額は、代用有価証券に一定の割合を掛けた金額です。この割合のことを「担保率」もしくは「掛け目」といいます。通常は、担保率は8割です。「通常は」と但し書きがあるのは、変動する場合があるからです。そのケースについては後述します。
以下には、保有する現物株がすべて担保率8割の場合の信用建て余力の計算を行います。
- 例:現物株の担保率が8割の場合
- 預け入れ保証金:400,000円
- 信用建て玉の評価額:320,000円
- 現物株の評価額:200,000円(担保率80%)
上記の場合、信用新規建ての計算は以下の通り。
- (信用新規建て余力+信用建て玉の評価額)×30%
- =保証金の金額+代用有価証券の評価額×担保率
X=信用新規建て余力
- (X+320,000)×(30/100)=400,000+200,000×(80/100)
- X=(400,000+160,000)×100/30-320,000=1,546,666
1,546,666円(内、現物株の分+654,545円)が新規建て可能。
単純に考えて、現物株の8割が保証金に加わった訳です。その約3倍が信用新規建て余力として計算されます。
有価証券の担保率が変更された場合
さて、前項では代用有価証券の担保率が80%であるとして、計算を行いました。ところが、この担保率というのは、株式市場の状況に応じて、稀に変更されることがあります。
担保率が変更されるのは、往々にして市場価格の変動が予想されるときです。立ち会い外分売や信用売りの増加、その他の株式イベントが発生する際に、担保率が引き下げられる可能性が生じます。
担保率の引き下げは、証券会社の判断によって異なりますが、大体80%→50%の引き下げが多いようです。以下のケースでは、保有している一部の現物株の保有率が50%に引き下げられた前提で計算してみましょう。
- 例:現物株の担保率が引き下げられた場合
- 預け入れ保証金:400,000円
- 信用建て玉の評価額:320,000円
- 現物株の評価額①120,000円(担保率80%)
- 現物株の評価額②:80,000円(担保率50%)
上記の場合、信用新規建ての計算は以下の通り。
- (信用新規建て余力+信用建て玉の評価額)×30%
- =保証金の金額+代用有価証券の評価額×担保率
X=信用新規建て余力
- (X+320,000)×(30/100)=400,000+120,000×(80/100)+80,000×(50/100)
- X=(400,000+96,000+40,000)×100/30-320,000=1,466,666
1,466,666円(内、担保引き下げ分-80,000円)が新規建て可能。
担保引き下げ分-30%が、信用建て余力から減額されます。現物株80,000円の担保評価額が-24,000円。その3.3倍の-80,000円が信用余力から引かれる訳です。。
要約すると、「担保の安定性が欠けた分だけ、保証金を引き下げますよ」という話ですね。
現引きを行って信用余力を増やす
最後に、少し裏技的な方法をご紹介して、解説をお仕舞いにしましょう。裏技的な手法というのは、現引きを使って信用余力を増やす方法です。現引きというのは、信用取引で買っている株式を現物取引で引き取ることです。
信用取引というのは、株式を借りる取引です。この借りている株式というのは、お金を支払えば現物株として引き取ることが可能です。これが、現引きです。現引きを行えば、信用買いの建て玉を現物株に置き換えることができます。
信用余力への影響としては、現引きで取得した現物株が新たに担保として機能する点が挙げられます。「信用買い→現引きで現物株取得→それを担保に再び信用取引」という再投資ができるようになる訳です。これを利用すると、計算上の信用余力を増やすことができます。
実際に、以下に計算を行ってみましょう。
- 例:現引きを使って信用余力を増やす計算
- 現引き前
- 預け入れ保証金:400,000円
- 信用建て玉の評価額:320,000円
この信用建て玉320,000円のうち、200,000円分を現引きする
- 現引き後
- 預け入れ保証金:200,000円(現物株買い入れにより減少)
- 信用建て玉の金額:120,000円
- 現物株の評価額:200,000円(担保率80%)
注意する点としては、現引きした金額だけ預け入れ保証金が減る点です。40万円の保証金で、20万円分の現引きを行ったら、残りの保証金は20万円になります。なお、信用取引のルールで定められている最低預け入れ保証金30万円を下回っているように見えますが、現物株が担保になれば問題ありません。
さて、現引き前の信用余力は、892,121円です(ケース1で計算済み)。これと、現引き後の信用余力を比較します。現引き後の信用余力は、ケース2と同じように以下で計算できます。
- (信用新規建て余力+信用建て玉の評価額)×30%
- =保証金の金額+代用有価証券の評価額×担保率
X=信用新規建て余力
- (X+120,000)×(30/100)=200,000+200,000×(80/100)
- X=(200,000+160,000)×100/30-120,000=1,080,000
現引き後に、信用余力は1,080,000円(現引き前+187,879円)に増加。
ご覧の通り、現引きをすることで信用建て余力が増えました。冒頭に書いた通り、現引きで取得した現物株が新たに担保となるためです。
この方法は、信用余力を増やしたいときに知っておくと便利です。株価の上昇局面で買い増しを行いたいとき、長期上昇トレンドを確信して、別の銘柄を買い付けたいとき。そんな取引拡大の場面で、知っておくと役に立ちます。
注意としては、現引きの信用余力への反映は、引け後の値洗いで行われる点です。即時には反映されません。このため、日中に現引きしても、信用建て余力が増えるのは翌日です。タイムラグがあることを頭にいれておきましょう。
まとめ
以上の通り、ケーススタディで信用余力の計算の仕方を解説しました。
ネット証券の取引画面等では、自動的に計算された信用余力の金額を確認することができます。そのため、実態としては計算をする機会は少ないかもしれません。
ただ、計算のルールを知っておくことは重要です。追い証を解消したいときや、逆に取引の金額を増やしたいとき、一体いくら必要なのか計算できないと、ストレスを感じることが多々ありあす。株式取引では、相場の上下を考えることも重要ですが、資金管理を行うことはもっと重要です。
信用余力の見積もりを行いたくなったとき、本ブログのこの記事がお役に立てば幸いです。
コメント
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X=400,000×100/30-320,000=892,121
とありますが
1013333.333
の間違いではないですか?
ご指摘ありがとうございます。
計算ミスでした。
該当箇所を修正しました。